恩を忘れた旅人
雪どけ近い春4月上旬の話・・・
浜益から増毛へ鰊場稼ぎに向かった男がいた。名は佐藤。
山道を踏破していく途中空腹と疲労で行き倒れたのは日暮れ近くであった。
何時間か過ぎてふと気がついてみれば、暗がりで怪しい手が佐藤の唇を撫でている。
ハッと思って、見ればそれは1頭の大熊。 熊は行き倒れた佐藤を助けて穴に連れ、介抱していたのであった。
佐藤はその時心から熊に恩を謝し夜明けを待って穴を出たが、道の方角がわからないのでためらっていた。
この時熊は穴から出てのそりのそりと佐藤を山道に案内してくれて、そこで別れた。
その日の昼頃、駅逓まで約半道のところで佐藤は熊狩りの猟師会った。
佐藤は以上の出来事を語った末、熊の収入山分けの約束で猟師をさきほどの熊の穴に案内した。
丁度熊が穴から出たのと出会ったその刹那、猟師の狙った1弾は見事熊の腹部に命中した。
逆襲 血にまみれた熊は猟師に向かわないで、その背後に立っていた佐藤に肉迫し、怒りの一撃で佐藤を倒した。
猟師はこれまでのいきさつを佐藤から聞いているので、銃を放って現場から一目散に逃れた。
これ以来猟師をやめたが、後日駅逓の人の話には佐藤は弾丸に撃たれた熊の血を満身に浴び、熊の下敷きとなって熊もろとも死んでいたという。
熊は人語を解したら、何と言ったろう・・・
多寄村 Iさん