ヒグマの社会
ヒグマは孤独を好み、親離れ後は原則単独行動する生物です。
ヒグマがもしシャチのように群れで行動や狩りをする動物だとしたら、大変ですね。
10頭のヒグマに囲まれ一斉に攻撃を受けるとか、考えたくないです。
目次
ヒグマのすみか
人里離れた山奥、クマにとって一番良い場所は大きな成獣のオスが住んでいます。
山奥にいる大きな個体は警戒心が強く慎重な個体も多いと言われています。
逆に言うと警戒心が弱く、軽率な個体は生き延びるのが難しいようです。
母子グマや親から自立して間もない若グマは、力の強いオスの成獣を避けて、リスクの高い人里近くに住んでいます。良い場所は強者に取られてしまうんですね。
母子グマや若グマはヒグマの社会で言えば、弱者なのです。
市街地に出没する個体は若グマが多く、人に対して警戒心の薄い個体もいます。
繁殖期になると発情した強いオスの成獣を避けて人里近くに来る若いオスの個体もいます。
札幌市周辺では研究により約30頭のヒグマが生息していることが、無人カメラの設置などにより確認されています。(2016~2017)
よく「札幌市みたいな大都市にヒグマが出るの?」と言われたりしますが、札幌市の南西部は山に接していて自然豊かですね。
上図は2014年のクマの出没情報をまとめたものです。出没情報の多い南区は山に囲まれていますし、山に接している西区と中央区も目撃や出没が多いですね。
強いオスがたくさんの子どもを残せる
ヒグマの社会では成獣のオスが最も強く、母グマや親離れしたての若グマが劣位に。
劣位にいるクマたちは成獣のオスを避けて暮らしています。
特に若グマにとっても母グマにとっても発情した成獣のオスは怖い存在です。
成獣のオスの間ではやはり強い個体が最高位です。
強いオスが良い餌場を占有し、たくさんの子どもを作ることができるのです。
クマは背こすりと言って木などに体をこすりつけ自分の存在をアピールします。
弱い個体は強い個体が背こすりをした場所に自分の臭いを上書きをしません。
メスたちはたくさんの臭いをあちこちにつけているオスを強い個体と認識。
たくさん臭いを残したオスと繁殖しようとします。
ヒグマの子殺しと人間との関係
繁殖期には発情したオスのヒグマが子連れのメスを付け回し、メスが連れている子どもを殺しメスと繁殖しようとすることもあります。
母グマは子グマを木の上に逃がしたり、子を守るために自ら闘争したりします。
しかし、それでも子グマを殺されてしまうこともあります。
殺されてしまった子グマはオスに食べられてしまいます。
共食いに関する記事は以下を参照ください。
それを避けるために、人間の存在を利用し子育てをするメスがいます。
例えば知床では人前に現れ授乳したり、子育てをするメスがいます。
人間の存在を上手く使って、繁殖期のオスを避けているのです。
賢いヒグマ母さんの知恵ですね。
スウェーデンでは法律で子連れのヒグマは保護されているため、通常の1年半の養育期間より1年長く養育する母グマが増えているとのことです。
子供を長く養育することによって人間の狩猟から自らを守っているのです。
母子ヒグマがストーカーオスと共に殺される?
2007年6月3日の足寄町での5頭のヒグマの射殺ですが、成獣母グマが2頭に子どもが2頭、成獣の雄が1頭。放牧地にいた5頭のクマは全頭射殺されました。もし発情したオスが母グマ2頭につきまとっていたとしたら、母グマは人を頼ってオスのクマを子どもから離そうとしたのかもしれませんね。(成獣のオスは警戒心が強く、人を避けて行動するので。)
一頭の母グマは8歳だったそうですが、成獣オスの年齢も知りたいところです。
ヒグマの行動範囲
GPSでの追跡により、メスよりオスの方が行動範囲が広いことがわかっています。
オスの行動圏は1日100Km以上で、メスは半径数kmとだいぶ狭くなっています。
幹線道路や列車の線路も横断して移動するため列車との事故や車との事故も多く、道路沿いに渡るタイミングをはかって、たたずむクマが時折目撃されます。
若グマは好奇心が旺盛なため、行動範囲が広めです。
メスは親離れした後も母親のそばに住む傾向があるため、母親が市街地周辺に定着するとその付近に定着する可能性があります。
ヒグマと人間の共存
近年、市街周辺の山林でメスが定住している可能性が指摘されています。
札幌市付近では約30頭の個体が定住していると言われています。
個人でできる対策
ヒグマの出やすい(森や山と近い)地域では・・・
- ごみの収集日、出す時間帯は守る
- コンポストの利用を控える
- 畑は電気柵で囲む(市町村で無料貸出制度ある場合も)
自治体でできる対策
- ヒグマに破壊されないごみ箱の設置
- ヒグマが身を隠して移動できる河畔林や防風林の下草を刈る
- 森林と農地の境界の草を刈って緩衝帯を作る
ヒグマは絶滅危惧種?
ヒグマは私たちが明治以降に北海道に入植するまでアイヌ民族と共に共存してきました。
エゾオオカミは北海道の開拓段階で絶滅(Extinct)させてしまいました。
エゾオオカミの絶滅によりエゾシカの激増が問題となっています。
エゾヒグマとは共存していきたいですね。
エゾヒグマのうち「天塩・増毛地方のエゾヒグマ」と「石狩西部地方のエゾヒグマ」は環境省のレッドリストの「絶滅のおそれのある地域個体群(LP)」に含まれています。「LP(Threatened Local Population)」とは「地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれが高いもの」です。クマ類では「西中国地域のツキノワグマ」や「紀伊半島のツキノワグマ」なども同じく「LP」に登録されています。
エゾヒグマの地域個体群
- 天塩・増毛⇒LP
- 渡島半島
- 積丹・恵庭(石狩西部)⇒LP
- 日高・夕張
- 道東・宗谷