NHKスペシャル 知床 ヒグマ運命の旅
HKスペシャル 「知床 ヒグマ運命の旅」の録画を久しぶりに見ました。
世界有数のヒグマ密集地帯、世界遺産知床でのヒグマの兄弟の物語です。
目次
ヒグマの兄弟シロとクロ
ヒグマの兄弟シロとクロは2010年の冬に知床のルシャに住むイチコから生まれました。
イチコは胸元の白斑がまるで漢数字の「一」のように見えるためそう呼ばれ、シロは顔周りに白い毛が多いためシロと、もう一頭は胸元にイチコと同じ模様があり、クロと呼ばれました。
世界自然遺産の知床は世界でも有数のヒグマ密集地帯として知られています。
知床半島は長さ約70キロメートル。そこに約200頭以上のヒグマが生息。
その中でルシャ地区は鳥獣保護区 特別保護指定区域に指定されています。
ルシャには約30頭の母子グマが住んでいます。
母イチコの愛情をたっぷり受け、日々育つシロとクロ。
魚獲りの上手なイチコに似てクロは狩りが上手。
シロはなかなか狩りが上達しません。
ヒグマのオスの過酷な運命
母イチコに守られ平穏に暮らせる時間は長くはありません。
通常ヒグマは1歳半くらいから親離れを始め、2歳の春までには独り立ちするのです。
独り立ちの先は過酷な運命が待ち受けています。
メスは親離れ後も親の側に定住し、そこで子を産み育て続けます。
しかしオスは近親交配を避けて、生まれ育った場所を離れなくてはならないのです。
エサや繁殖相手が豊富な森の良い場所は、力の強いオスが支配しています。
親離れしたばかりの若いオスは自分のテリトリーを求めて彷徨うのです。
激しい生存競争にさらされるのがヒグマのオスの運命。
5歳まで育つことのできるオスのヒグマは50%に満たないと言われています。
シロとクロの独り立ち
2012年の7月、シロもクロも2歳になっていました。
クロはすでに親離れしたようですが、シロはまだイチコと一緒。
シロは何故かとてもやせ細っています。
シロのことが心配でイチコはまだシロを独立させなかったのでしょう。
クロは推測ですが、2011年の9月にはイチコとシロと一緒にいたので、冬ごもり前か冬ごもり後の春に独り立ちしたのでしょう。
イチコが苦労して海で見つけたイルカの死体にシロがありつけました。
同じようにお腹を空かせて困っている母子グマが集まってきます。
しかし、そこに現れたのはオレンジというかつてのルシャの王者。
今は30歳を超えていて、ヒグマではとても老齢のオスです。
せっかくイチコがとってきた獲物をオレンジに横取りされてしまいます。
過酷な2012年8月
2012年はヒグマにとってとても過酷な夏でした。
ただでさえ夏はヒグマが春から食べてきた植物がなくなってしまう時期。
エサが少なくなってしまう辛い時期なのです。
例年8月にはマスが遡上してくるのですが、2012年はやってきません。
マスを待って川をのぞき込むヒグマ達。
皆やせ衰えていきます。
海水温の上昇のためになんと1ヶ月もマスの遡上が遅れたのです。
そしてこの時期、ルシャに住むヒグマの3分の1の9頭が餓死したのでした。
イチコもやせ衰え、シロと一緒にルシャから姿を消しました。
番組では述べられてませんでいたが、餓死したヒグマ以外にもフラフラの飢餓状態で町に迷い出たヒグマもたくさんいたそうです。そういったヒグマは駆除されましたが、餓死したヒグマも駆除されたヒグマも決して人を襲うことはありませんでした。
イチコとシロの行方
しかしイチコとシロは生きていました。
ルシャから15kmほど離れた海岸で定置網にかかったマスを食べて生き延びていたのです。
イチコの機転により二人とも生きながらえることができました。
しかし、いつまでも一緒にいるわけにはいきません。
冬ごもり前には別れなくてはならないでしょう。
シロも不安だったでしょうが、イチコもシロを一人にするのは心配だったでしょう。
2012年11月下旬、もう冬ごもりの季節です。イチコとシロはまだ一緒にいました。
8月のやせ衰えた姿とはうって変わって、脂肪もつき立派になっていました。
シロはもう2歳8ヶ月。冬ごもり前にきっと親離れしたはずです。
クロの最期
シロより先に独り立ちしていたクロですが、2013年4月の朝に羅臼町に現れました。
人が住む住宅地です。その時は10分ほどウロウロして森に消えました。
しかし、翌日もクロはまた姿を見せたのです。
更に再び民家に近い海岸に現れ、ついに駆除されてしまいました。
2013年4月26日。3歳と数ヶ月の短い人生でした。
シロよりも先に独り立ちし、2012年の厳しい夏も独りで乗り越えたクロ。
しかし厳しい森での生存競争に敗れ、人里近い海岸で短い命を終えました。
シロの最期
シロも独り立ちをしていました。
クロが死んでから約2か月後の2013年6月上旬。
故郷のルシャから30キロほど離れた人里に近い海岸にいました。
昨年11月に見せた立派な姿とは違う痩せ細った姿です。
あの後冬眠し春を迎えたものの、クロと同様に森に居場所を見つけられなかったのでしょう。
人里近くの海岸なため、声や花火などで威嚇され追い払われます。
シロは海岸が好きだったようです。
イチコと楽しく過ごしたルシャの海岸を思い出していたのかもしれません。
しかし、シロは14回も人里近くに姿を現しました。
人里近くに何度も現れるヒグマは危険な個体とみなされ、駆除される運命です。
2013年6月5日、シロはついに町の中心部近くの海岸までやって来ました。
そして、駆除されたのです。兄弟のクロと同じように。
ルシャの王オレンジの末路
オレンジはルシャの王者であったことが遺伝子調査からわかっています。
オレンジは最も多くの子孫をルシャで残したオスでした。
かつては森の奥で悠々と暮らしていたでしょう。
しかし今は森での生存競争に敗れ、昼でも人の前に姿を現すようになりました。
2012年、斜里町ウトロの人里近くにオレンジは姿を現しました。
川で鮭を取っている姿を目撃されています。
その後再びルシャに戻りましたが、他のオスと争ったのでしょう。
2013年7月、尻の皮がめくれ脂肪が露出した状態で目撃されました。
番組では、そこでオレンジをみた最後となっています。
しかしこの後オレンジは羅臼町相泊の漁港に姿を現すようになり、2013年8月に駆除されました。年齢は34歳。野生のオスの捕獲個体では最高齢だと思います。
そういえば2013年の繁殖期にメスと交尾している姿が目撃されたそうです。
オレンジ爺さん、お盛んですね。2013年に駆除されなければ、飼育下のオスの最高齢と野生捕獲個体のメスの最高齢(34歳)を抜いたかもしれません。
ヒグマの年齢に関する記事は以下からどうぞ。
捕殺された場所
クロとオレンジは羅臼町で。
シロは反対側の斜里町の海岸沿いで。
故郷ルシャから離れた3頭はそれぞれの場所でそれぞれの命を終えました。
他の番組でのシロとイチコ
この番組以外でもシロとイチコが出ているものがありました。
この番組ではなかった映像もあったので追記しておきます。
イチコがイルカの死骸を海から獲得する際、最初シロは海へついて来ていました。
岸にひとりで取り残されたのが不安になってしまったのでしょうか。
イチコはついてきたシロを岸へ連れて戻ります。
シロが泳ぐには長い距離すぎるのです。
その後再びイチコは海に入り、イルカの死骸を見事獲得してきます。喜んで食べるシロ。
この後は、この番組で放送されたとおり、他の母子グマもやって来ます。
そして最後はオレンジに奪われるという顛末。
オレンジは一晩イルカの死骸の側で過ごしたのです。
名残惜しそうにイルカの死骸を見るシロが哀れでした。
イチコはリッチ?イチコの旦那は?
この動画のリッチ(12歳)はイチコに見えます。ヒグマの個体判別には自信がないのですが。
共通点は以下のもの。
- 胸元の一文字の白い体毛
- 2010年にオスを2頭産んだが両方ともウトロや羅臼に出て捕殺
- 2014年の秋に1頭の子グマを連れている
知床財団の資料から判断するとおそらく同一個体だと思います。
イチコはリッチでクロがレッチー、シロがルッチーという識別名と思われます。
シロの駆除後の計測によると体重139kg、前掌幅14.5cmだったそうです。クロは体重120kg。
イチコは番組が名づけた名前でしょうか。
リッチは北大のヒグマの研究者がつけた名前のようですね。
ちなみにシロとクロのお父さんで、イチコの旦那のマサミ(2014年に推定10歳)は2014年に羅臼町で駆除されているそう。(ヒグマは毎回同じ相手と繁殖するわけではありません。)
マサミは過去のダーウィンに出ていました。これにはオレンジも出てます。
(一瞬ですがシロもルッチという名前で出てます。1:33秒ごろ)
他の動画にもリッチ(14歳)が出ていましたが、別の母グマと闘争しシカを奪ったりなかなか強い母さんのようです。この時にもオスの0歳を連れています。
2010にオス2頭(レッチーとルッチー)、2014にオス1頭(2頭産んでいた?)
2016にオス1頭産んでいることになりますね。
その他のリッチの動画はこちらの「【MIKIOジャーナル】冬眠前 母グマの激闘」から。
駆除される若グマはシロとクロだけではない?
ルシャで生まれたオスグマは人慣れが原因で市街地で死ぬ確率が高いとこの動画では言われています。なんと斜里や羅臼で捕殺される若グマのうち1/4がルシャ生まれ育ちだということが遺伝子検査でわかったそう。
これは偶然とは言えない多すぎる割合だと思います。
シロとクロはたまたまNHKが取材しクローズアップされましたが、ルシャで生まれ、育ち、そして最後町に出て駆除される若グマは他にもたくさんいるのでしょう。
感想
2014年放送時、「わーい♪ヒグマの兄弟の物語だって。楽しみ♪」
とか喜び勇んでみたら、この結末。これはひどい。
最後は2014年春にイチコが新しい子グマを連れているところで終わります。
その子もまた過酷な運命をたどるのかもしれません。
(最初は2頭でその後1頭に減ったようです。
残ったのはオスですから、シロとクロと同じ運命かもしれません。)
しかし、ヒグマに限ったことじゃないですけれど野生は過酷ですね。
オスの若グマ2匹(3歳)とオスの老獣(34歳)にフォーカスしてましたが、対照的ですよね。
大人になれなかった若グマと、大人になり君臨した後、落ちぶれた老ヒグマ。
メスも大変です。
母子グマも若グマと同様、ヒグマ社会では弱者。
エサが取れない時期に死んでいくのは母子グマです。
2012年の過酷な夏、ルシャのヒグマの3分の1が餓死した際には、生まればかりの子グマや母グマから命を落としていったと番組HPに書いてありました。
発情期にはオスに子どもを狙われるし、母さんも大変。
ところで世界遺産知床では年間約20頭のヒグマが駆除されるとのこと。
知床全体で200頭くらい生息しているので、1割が駆除されていることに。
シロとクロは同じ2013年に駆除されているので、年20頭駆除されるうちの2頭。
年間駆除数のうちの1割がイチコの子ということに。
シロは弱そうな個体でしたが、クロも森で生き抜くのは難しかったのですね。
日本最大&最強の陸上生物ヒグマも生きるの大変です。
地球上に生きるすべての生物は生き抜くのが大変です。
About Brown Bears in Shiretoko
Shiretoko is one of the World Natural Heritage Sites in Japan.
It is located in the eastern part of Hokkaido, the northern island of Japan.
In shiretoko, there are about two hundred wild Yezo Brown Bears.
It is known as one of the highest density population areas of Brown Bears in the World.
Brown bears are the biggest mammals in Japan and they sometimes attack humans.
Brown bears in some areas are listed as the Threatened Local Population in Red List of Ministry of the Environment.
Around twenty brown bears are killed in Shiretoko a year due to their behavior, such as a frequent approach to towns or humans, eating garbage, and etc.
Main reason why they cause those problems is because they has habituated to human. Some tourists even make wild bears take to feeding!
After listing as the World Heritage, Shiretoko has been visited by numerous tourist from home and abroad. Visitors must avoid habituating the bear to human so that wild bears not to be killed in bear’s habitat.
It is difficult for young bears to survive in Shiretoko, the World Heritage Site.
One reason why young bears can’t get enough food in the forest is because good areas to live are occupied by strong male brown bears.
As a result, they are forced to approach towns in search of food and they are finally killed by humans as dangerous individuals.